「ほっ」と。キャンペーン

分子小籠包で気づいた小籠包そのものの分子料理性

黒トリュフの香る、焼き腸粉。

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こういう、わりと笑っちゃうような中華ベースのモダン料理を食べさせる香港のMic kitchenのランチに、去年のクリスマスごろ行ってきた。

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ミシュラン三つ星を誇るBo Innovationのセカンドライン的な存在で、冒頭のトリュフ腸粉もBo Innovationの名物。

ランチは228HKDで前菜+メイン+デザートのプリフィクス。

トリュフ腸粉はランチメニューにあった「シグニチャー・サイドディッシュ」コーナーからの追加オーダー。

もう一品、シグニチャー・サイドディッシュの一品を紹介するためにこの記事を書いたのだが、ひとまず3人で食べたランチの皿を紹介しておこう。

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臘腸(中華腸詰)入りフォアグラのサラダ。

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いろんな種類のトマト、ビーツ、欖角(中国オリーブ)のパウダー、八珍(香港の甘酢)のソース、山羊のチーズのソース。

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雲南地方シャングリラのヤクのチーズを使ったトーストと、海老でんぶのシーザーサラダ。

以上が前菜。

そしてメインは、

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ロマネスコやカリフラワーなどグリル野菜と、焼きポレンタ。

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マンダリン・フィッシュと、下の付け合せはパンチェッタ、ちりめんキャベツ、白いんげん豆。

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仔牛とアスパラガスとリゾーニ(米粒型パスタ)。

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デザートはこのようなもの。

で、書いておきたかったのは、この料理。

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Molecular Xiao Long Bao。

メニュー表記はすべて欧文なのだが、ん? 何かと思えば、つまり、分子小籠包というわけだ。

これもシグニチャー・サイドディッシュの一品。

Bo Innovationの名物料理のようだから、もうそこらじゅうで書かれているのかもしれないが。

この黄色いボールをレンゲとともに口に入れると、わりと熱々で、すでに小籠包っぽい香りがしている。

で、思い切ってボールを「プチュッ」と口内でつぶすと、まさに小籠包としか言いようのないスープがあふれて口内を満たす。

液体のみで、肉などの餡はない。

上に乗っている赤い一筋は生姜だった。

そう。要するにこれ、正に小籠包を食べた時の体験と同様の感覚が味わえる。

だったら普通の小籠包を食べればいいじゃないか、という容易に想定可能な野暮な突っ込みには別の機会に応えるとして、やっぱり、食べたあとに笑っちゃう。

あまりにも小籠包なので。

このワンスプーン・スタイル、分子料理にありがちなプレゼンのひとつのような気がするが、小籠包もレンゲにのっけて一口でパクっと口に入れるのが作法であり、この、食べる際の行為の類似性も、料理の考案者が言いたいことのひとつだろう。

(※昔、上海の豫園にある南翔饅頭店に行ったら、客がみな小籠包を一口でパクっとやらずに、小さく皮を破って、その穴からチューと肉汁/スープをすする、という食べ方をしていたが、今もやってるんだろうか?)

調査したわけじゃないから以下は間違ってるかもしれないが、もともと上海名物の小型の包子だった小籠包は、台湾に渡って皮がどんどん薄くなり、いかに口の中に運ぶまで皮が破れず、口内でプチュッとはじけたとき美味しいスープがあふれるようにするか、多くの麺点師が技を競ってきたのだと思う。

以上のようなピンポイントを誇張し、デフォルメし、特殊な発展を遂げてきた小籠包って、思うに、もうすでに十分モラキュラー的だと言えないか。

つまり、ある意味、分子小籠包は小籠包の究極の形なのでは・・・。

(よ)
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# by brd | 2016-01-11 03:40 | 香港 | Comments(4)

コペンハーゲンKødbyen(肉の町)のレストランホッピング

あけましておめでとうございます。

このところ各種告知めいた記事ばかりが続いたので、新年一本目は初心に戻ろうということで、純粋な食べ歩きリポートを。

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コペンハーゲンのブルーパブWARPIGSのリポートでも触れた、元食肉市場のKødbyen(肉の町)エリアはヒップな感じというか、最近っぽい雰囲気が漂っており、良さそうな飲食店も多いんだけれど、旅行中にじっくり一軒一軒試す時間はない。そこで、いくつかの店をハシゴすることで夕飯を完遂するレストランホッピングを企てた。

時期は2015年の9月。

さて。まずは一軒目。

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WARPIGSに再び。

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アペリテフのつもりで、22タップの中からセッションIPAをチョイス。

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これがめっちゃウマ。

ホッピーでフルーティでドリンカブル。爽やか。冴えてる。頭の芯までシャッキーンとする清々しさ。ホップを強調したビールの理想形のような味わいで、最初からアガる一杯。

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嬉しくなってWARPIGSのTシャツまで買ってしまった。

フランクな店のスタッフが「東京に住んでいたこともあるよ」と話しかけてくれた。

二軒目。

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イタリアンのmother

ここはサワードウ・ピッツァが看板らしいのだが、それを食べるとお腹がいっぱいになってしまいそうなので、ワインと、

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モツァレラを。

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このモツァレラが地元のオーガニックなミルクで作った自家製なんだとか。さすが。クリーミーで美味い。

食べてもいないのに撮影させてもらったピッツァの窯はこんな感じ。

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三軒目。

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魚料理で有名な、FISKEBAR

KØDBYENS FISKEBARで「肉の町の魚のバー」ということかな? ちょっと矛盾な感じ。それもまたここっぽい。

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こんなカワイイ感じでパンとバターが出てくる。

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生牡蠣は、味わいのキャラクターの違う4種の産地から選べる。どこのを選んだか・・・忘れてしまった。が、美味かった。

そして、鯖の料理を頼んだら、これが結構凝っている。

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魚にはラルドがかぶせてあって、ソースはアイヨリとアンチョビ。グリーントマト。パリパリはヨーグルト、とか言ってたかな?

ダイニングの中心にカウンターのバーがあって、囲むようにテーブル席がある。バーで軽くつまんで飲むこともできるけど、料理がけっこう美味しくて、ちゃんとしている。

ガストロノミー系レストランの一皿のようなクオリティで、もしかしたらここはコースでしっかり食べたほうが良かったのでは・・・と後ろ髪をひかれながら、しかし、初心貫徹、次の店へ!

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KUL。ここもモダンな料理で評判のレストランなんだけど、一皿二皿で済ませるにはちょい敷居高そうで、勇気が出ず、パス。

さて、四軒目。

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NOSE2TAILへ。

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店名はNose to Tail(ノーズ トゥ テイル)ってことで、鼻先から尻尾の先まで残さず捨てず全部食べ尽くすという意味。肉料理のお店。

店内、地下室感満点。

かつてパテの工場だったとか。当時の雰囲気を残すような内装にしてある。

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EAT MORE BACON AND HAVE MORE SEXとか書いてあった(笑)。

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なかなか美味しいシャルキュトリ盛り合わせ。豚、牛、鴨のハムやレバパテなど並べたまな板にナイフをぶっ刺して出てくるプレゼンがイイでしょ?

ラム肉の入ったサラダも食べて、かなり満腹に。

五軒目。

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MAGASASA

・・・と思ったのに、ここ、ラストオーダー後だった。

くー、残念。

わりと閉まるの早いんだ(22:00くらい?)。

DIM SUMとあるように中華のお店で、さっき店前を通りかかったとき中国系と思しき麺点師が手延べで製麺している様子が外から見えていたので、おお、シメは絶対に麺!って決めてたのに~。

ウェブサイトを見ると、面白げなカクテルもあり。

ここの店、北欧関係の著書がいっぱいある森百合子さんのガイドブックでミッケラーのミッケル・ボルグがリコメンドしてた。要チェック。誰か利用した人がいたら、どうだったか教えてください。

別の日の夜だけど、Kødbyenはこんな感じでライブのイベントをやってたりもする。

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ちょうどテクノのDJがバッキバキなプレイをしていて、Kødbyenを出てかなり離れても音が聴こえるくらいの音量でやっていた。スゴイなー。

ミッケラーのビールカーも出動して観客たちにビール販売。盛り上がってた。

あと、Kødbyenにはincoなる超巨大食品スーパーがある。

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ここも非常に面白い。

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中に入るとこんな感じで、どこまで行っても食品、食品、食品・・・。

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ビールもクラフト系から大手のまでけっこう揃ってる。

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こちらは加工肉関係。

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チーズも種類豊富。

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アジア食材のコーナーにはタイのガピから日本の搾り柚子のボトルまで。

もう、いろいろ買う気満点で広大な店内を巡ってたんだけど(しかも市中よりずいぶん安い!)、どうやら業者向けの店らしくて日本人観光客には売ってもらえなかった・・・。

ここ、旅行者でも買える方法、ないのでしょうか。

以上、コペンハーゲンKødbyenリポートでした。

今年もよろしくお願いします!

(よ)
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# by brd | 2016-01-01 15:17 | デンマーク | Comments(10)

屋台で最も衝撃を受けた料理 タイ料理家・下関崇子さんとの対話 その3

『味の形 迫川尚子インタビュー』(ferment vol.01)の創刊準備号となるフリーペーパー『ferment vol.00 タイ料理家・下関崇子さんとの対話 タイと、日本と、かぼちゃ炒めと。』のテキストを本ブログで公開しています。

「その2」
に引き続き、最終回の「その3」を。

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下関崇子さんとの対話
タイと、日本と、かぼちゃ炒めと。
その3

インタビュー・文/(よ)

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イベント「しまたい食堂」で下関さんが調理中のかぼちゃ炒め。豚肉とかぼちゃを炒めてナンプラーと砂糖で味つけし、卵でとじる

屋台で最も衝撃を受けた料理

よ: 著書の『バンコク思い出ごはん』[★25]の版元の平安工房というのは、どんな?
下: まず、『曼谷シャワー』[★26]という本を出したくて検索していたら見つかって、「原稿は募集していませんが面白いものなら…」みたいな感じでした。それを見てメールしたら面白がってくれて、出版することになったんです。
よ: 「ほぼ日」の「担当編集者は知っている。」のコーナーに採り上げられていましたね。下関さんは著者かつ担当編集者でもある、という立場で。
下: 平安工房は出版社ではないですけどね。
よ: もともと古書店ですよね。
下: 書店っていっても実店舗はないんです。オンラインだけで。古本屋さんだけあって、「1円で売られない本作り」がモットー。
よ: 『曼谷シャワー』はタイ生活の面白ネタを綴ったコラム集でしたが、タイ料理本の『バンコク思い出ごはん』も平安工房から出版されて。
下: タイミング的には『思い出ごはん』は『そうざい屋台』の後に出るんですけど、作業的には『そうざい屋台』の前から手がけてたんです。ほぼ、ひとりでやってたから時間がかかって。デザインは『DACO』とか『Gダイ』[★27]をやってた友だちのデザイナーにお願いしたんですけど、構成もデザインも、何度も試行錯誤してやりなおしたし。
よ: 料理のチョイスが、普通のタイ料理レシピ本とは全然違いますね。
下: この本は、もう私の原点です。渡辺玲さん[★28]が、「ファーストアルバムには音楽家のエッセンスがすべて凝縮しているものだが、自分の最初の著作も同じだ」っていうようなことを書いてますけど、この本はそういう本ですね。
よ: 『バンコク思い出ごはん』はタイ料理家、下関崇子のファーストアルバムであると。
下: そうですね。

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『バンコク思い出ごはん』 2015年7月に改訂版がリリースされた

よ: この本に必ず掲載しようと思っていた料理ってあります?
下: 一番最初に載っている「かぼちゃ炒め」。最近、ほかのレシピ本にも載るようになりましたけど、当時は全然でした。で、この本で採り上げたら、タイに住んでる日本人から「これ食べたかったんだよ!」っていう声がすごく多くて。やっぱりみんなそうだよねって、すごく自信が持てた。
よ: バンコク10年以上住んでるボクの友だちも、「食べたい感じの料理がいっぱい載ってる!」って感心してましたよ。ボク自身は、実はかぼちゃ炒めって食べたことがないから、すごく食べてみたい。
下: 私が屋台で最も衝撃を受けた料理です。まず、甘いのにびっくりして。タイ料理にも、こんな甘い料理があるんだなって。これ、バンコクの日本人はみんな食べてましたね。
よ: とくに日本人の記憶に残るタイ料理なんですかね。
下: ほかの料理がとにかく辛いから…。
よ: 辛くないオアシスみたいに、ほっとできるんですか?
下: ほっとできるし、何か安心感があると思う、味に。
よ: 日本料理で近いものって何ですかね? かぼちゃと豚肉を使う…。
下: かぼちゃに豚ひき肉のそぼろ餡を合わせるような料理はありますよね。
よ: タイの「かぼちゃ炒め」の作り方は?
下: すごく簡単。豚肉炒めて、かぼちゃ入れて、水すこし入れて、かぼちゃを柔らかくして、ナンプラーと砂糖で味をつけて、最後に卵でとじるだけ。
よ: まさにファーストアルバムの一曲目。ほんと、食べたくなってきました。
下: これが原点。でも、料理教室で教えたり、日本のタイ料理レストランで出すようなメニューでもないしね。
よ: そうですか?
下: だって本格的な日本料理を習いに行って、ツナマヨおにぎりだったら、どうなの? って(笑)。
よ: ツナマヨほどじゃない気もしますけど(笑)。
下: プロには鰹だしのとり方とか、かつらむきとか、そういうの習いたいじゃないですか。小料理屋なら、ツナマヨじゃなくて鮭のおにぎりを出すべきだし(笑)。あの本は、プロではないアマチュアの私だからこそ掲載できている料理も多いと思うんですよね。
よ: そういうポジティブなアマチュアリズムって料理界に絶対必要ですよ。
下: ほんと、「かぼちゃ炒め」はタイから帰ってきて「これ、タイで食べてたよね」って日本人がすごく多くて。語学留学でタイに行った人が学食のメニューからこればっかり選んでたとか、駐在員の奥さんがタイ人のお手伝いさんによく作ってもらったとか。
よ: タイ在住経験を持つ日本人のソウルフードみたい。そういえば旦那さんも、あまり辛い料理が得意じゃないと書かれてましたよね。
下: そう書くと誤解されるんですけど、私よりも全っ然辛いものいけますよ、旦那は。タイ人にしては苦手ってだけで。私が作る料理を、旦那は「辛くなくて美味しい」って言うけど、タイ料理教室の日本人の生徒さんには「辛いけど美味しい」って言われる。
よ: 辛さの基準が全然違うと。

レシピ本ではなくエッセイ集

よ: で、タイミング的にはファーストより先にリリースされてしまったメジャーレーベルからのセカンドアルバムが『そうざい屋台』ですけど、次のサードアルバムは、またインディーズからリリースされたわけですよね(笑)。これが、傑作です。

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普通のタイ料理本に載っていないレシピ多数。『暮らして恋したバンコクごはん』

下: 『暮らして恋したバンコクごはん』ですよね。タイで印刷したんですよ。
よ: この本はすごい。たとえば、「発酵させた酸味スペアリブ揚げ」とか「イサーン風なれずし」とか「発酵した魚のソーセージ」とかが掲載されてますが、生魚や生肉を室温で数日発酵させるというレシピは、普通の出版社ではNGになりそうですね。
下: 『思い出ごはん』もそうですが、レシピ本じゃないですから。基本的に料理エッセイ集で、作り方に興味がある読者は巻末のレシピを見てくださいっていうスタンス。すごいでしょ、その辺のサジ加減が(笑)。
よ: ばっちりです(笑)。下関さんならではの著者編集兼任の妙というか。あと、生肉ラープ。これもエッセイパートには、日本では生食用の牛肉は売っていないので注意してください、とか書いてあるんですよね(笑)。
下: これ、原稿の段階で『DACO』の元編集の友だちに一回読んでもらったんですけど、「このレシピ、大丈夫?」って言われました。でも、あくまで体験記です(笑)。
よ: その体験記がものすごく参考になります! 生肉はさておき、発酵料理に対しては、みんな不必要にハードル高く考え過ぎですよね。
下: 発酵なんて、ひと昔前まで普通に日本人もやってたわけでしょ。
よ: 甘酒やら、お味噌作ったり。
下: 実は最近、某有名発酵学者の方の本の編集補助の仕事をやって、発酵には詳しくなりました。たとえば、この本にも載ってる「カウマーク/甘酒風味のもち米」。日本の麹って米粒にカビを生やすバラ麹なんですけど、タイでは団子にしたものにクモノスカビを生やすモチ麹。あたりに漂ってる菌が日本とタイじゃ違うんですよね。味は甘酒みたいで、タイと日本の食の共通項って多いなって。
よ: 発酵といえば、この本にはナンプラーの作り方まで書いてある。
下: 本邦初公開レシピも多いので、私のブログやレシピ本がネタ元になってないか、新しいタイ料理レシピ本が出るたびに買ってチェックしてるんですよ(笑)。ただ、私以外にレシピを載せる人はいないだろうと思っていた「蓮の茎のカレー」[★29]はかなり前に出ていた竹下ワサナさんの本[★30]に載ってましたねぇ。竹下ワサナさんの本は良いですね。もっと早く出逢ってたら、私の本も違った形になってたかも。
よ: ボクが一番初めに買ったタイ料理のレシピ本がワサナさんの本でした。
下: 私、日本で出ているタイ料理のレシピ本の約8割くらいは持ってますよ。今アマゾンで購入可能な本は、ぜんぶ持ってると思う。
よ: ほかに好きな本はありますか。
下: 酒井美代子さんの『今夜はタイ料理』[★31]かな。出たのが昔なので、本の作りはおしゃれじゃないんですけど、載ってるメニューは宮廷料理から屋台料理までバラエティに富んでて。最近のレシピ本は、初心者の人を対象にしたのばかり。二冊目に買いたいという本がないですよね。だから自分で作ったというのもありますが。
よ: 『暮らして恋したバンコクごはん』と『バンコク思い出ごはん』の巻頭にある写真は息子さんですよね。味覚というか、食に対するセンスは、どんな感じに育ってますか?
下: 私が作るタイのお菓子とか、美味しいって食べてくれますよ。同じお菓子をウチに遊びに来る同級生の子にあげると、口に入れた瞬間「うっ」となって食べられなかったりするんだけど(笑)。ココナッツ味がダメみたい。親子タイ料理教室で、タピオカココナッツミルクを作ったら、子どもの半数が残しちゃったことがありました。
よ: じゃあ、お子さんは、すくすくと日タイ両方の味覚を育んでるんですね。
下: ええ。

2013年9月 船橋にて

<注記>

[★25]『バンコク思い出ごはん』
2010年5月、平安工房・刊。2015年7月に改訂版がダコトウキョウよりリリースされた。
[★26]『曼谷シャワー』
2007年12月、平安工房・刊。『DACO』連載の同名コラム第100回までを掲載。
[★27]『Gダイ』
『Gダイアリー』。タイの夜の盛り場日本語情報誌。
[★28]渡辺玲
インド料理、スパイス料理研究家。『カレー大全』(講談社)など著書多数。「ファーストアルバム」発言は、著書の『新版 誰も知らないインド料理』(光文社知恵の森文庫)文庫版あとがきにある。
[★29]蓮の茎のカレー
鯵と蓮の茎をココナッツミルクで煮た料理。著書では蓮の茎を蕗で代用。
[★30]竹下ワサナさんの本
『旬の素材でタイ料理』(文化出版局)、2001年6月発行。
[★31]酒井美代子・著『今夜はタイ料理』
1993年7月、農山漁村文化協会・刊。




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# by brd | 2015-12-03 00:08 | 東京のタイ | Comments(2)

「寿司」「天ぷら」ではなく「豚キムチ炒め」 タイ料理家・下関崇子さんとの対話 その2

『味の形 迫川尚子インタビュー』(ferment vol.01)の創刊準備号となるフリーペーパー『ferment vol.00 タイ料理家・下関崇子さんとの対話 タイと、日本と、かぼちゃ炒めと。』のテキストを本ブログで公開しています。

前回に引き続き、その2回目(全3回)。

インタビューは2013年9月。

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下関崇子さんとの対話
タイと、日本と、かぼちゃ炒めと。
その2


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バンコクのフードコートのかぼちゃ炒め

下関崇子 プロフィール
しもせき・たかこ。ダイエット目的で始めたキックボクシングにハマって後楽園ホールでプロデビュー。ムエタイ修行のため渡タイ。結婚と出産を経て2006年に帰国。現在はムエタイ、タイ料理、タイ古式マッサージの講師などをつとめる。著書は『闘う女。~そんな私のこんな生き方』(徳間文庫)、『曼谷シャワー』(平安工房)、『バンコク「そうざい屋台」食べつくし』(アスペクト)、『バンコク思い出ごはん』『暮らして恋したバンコクごはん』(ダコトウキョウ)など。

インタビュー・文/(よ)

「寿司」「天ぷら」ではなく「豚キムチ炒め」

よ: 著書の『バンコク「そうざい屋台」食べつくし』[★11]の序文でも書かれてますよね。日本のタイ料理本に載ってるのは「トムヤム」や「ヤムウンセン」「鶏肉バジル炒め」とかの有名料理ばかりで、自分が食べたいものがない。日本の料理で言えば「寿司」「天ぷら」「すき焼き」ではなくて、「里芋の煮っ転がし」や「豚キムチ炒め」みたいな、日常的な惣菜を伝えたい、と。
下: うん。
よ: ヤムヤム総集編[★12]のときのスピーチでも、同じことを言われてましたね。
下: そうですね。
よ: その意識は一貫してる、と。
下: もちろん。タイに住んでいると、日本から来た友だちと一緒に食事に行こうってなりますよね。で、「何食べたい?」って聞くと「カオカームー」[★13]と「ラープ」[★14]とか、なんか組み合わせがバラバラなんです。
よ: 日本のタイ料理屋には全部そろってるけど…。
下: タイだとその料理、一軒で出ないよ、みたいな。
よ: 「カオカームー」は完全に屋台料理だからレストランにはないですよね。「ラープ」はイサーン料理だし。
下: 「カオマンガイ」[★15]なんかもレストラン料理ではないし。とにかく、有名なタイ料理は知ってるけど、それがどこで食べられるのかは知らない。日本に来た外国人に「寿司」と「餃子」を食べたいって言われて困まる、みたいな。
よ: 寿司屋に行ってから、餃子屋に行くしかないですね。
下: でしょ。おなじ店では食べられないし、そういうことがすごくゴッチャになってるのを整理したくて作ったのが『バンコク「そうざい屋台」食べつくし』なんです。

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『バンコク「そうざい屋台」食べつくし』

よ: ボクがタイ料理に興味を持ち始めたころ、森枝卓士さん[★16]や前川健一さん[★17]の本を読んでましたが、それが理論編だとすると、『そうざい屋台』はものすごく使える実践編のような感じです。ボクのブログにコメントをくれるアジア好きの人も持ってるって言ってましたよ。
下: もっと売れてほしいんですけど。
よ: ほんと、もっと売れるべきですよ! この本、実際にバンコクの屋台で惣菜を買って、『DACO』[★18]の編集部に持ち込んで撮影して味をみて…を繰り返して作ったんですよね。
下: 一度に十食とか二十食とか屋台で買ってきて、お皿に盛りつけて、撮影は『DACO』のタイ人スタッフにお願いして。で、ランチとしてスタッフ全員で食べるんですけど、彼らに料理の感想を聞いてメモをとる。で、その作業が一通り終わると、だいたい夕飯の時間なので、それに合わせてまた買いに行くという繰り返しでした。私もけっこう食べてると思ってたんですけど、意外と食べたことがない惣菜が、まだあったんです。
よ: 相当な数ですからね。
下: 気に入った料理ばかり繰り返し食べていたりするんですよ。
よ: どんな料理が気に入ってましたか?
下: そう聞かれると、百くらいばーっと挙がっちゃうけど。
よ: じゃあ、逆に食べてなかったものは?
下: イサーン系[★19]の惣菜はあんまり食べてなかったですね。
よ: 意外ですね。旦那さんの出身はどこでしたっけ?
下: ロッブリー。アユタヤのちょっと上あたり。イサーンのムエタイジムに数年住んでいたので、イサーン料理も食べるんですけど、どっちかと言えば食の好みはバンコク寄りです。
よ: 日本人の場合、身近にいたタイ人の出身地で、タイ料理の嗜好が変わるってことはありますか?
下: それは、すごくあるでしょうね。
よ: 下関さんの場合、タイに来ていきなりムエタイのジム通いだったでしょ。ジムにいるタイの人たちは、どこの地方が多かったんですか?
下: うちはまんべんなく散らばってたかな。ジムによって違うんです。南の出身者が多いジムもあるし。同郷の人を引き抜いてきて、固まってる場合もありますね。
よ: 彼らの食の嗜好に影響を受けたりはしなかったですか?
下: 地方出身の若い男の子たちだから、高級タイ料理には縁がなかったけど、ジムのまかない飯や、地方のお土産とか、近所の美味い屋台とか、庶民の食生活にどっぷり浸れたっていうのはあります。
よ: ムエタイやりながら、自然とタイ料理に関する知識も増えていきますね。
下: ええ、もともと食いしん坊だし。『タイの屋台で食いだおれ』っていうタイ料理コラムをホームページに載せたり。
よ: バンコクでタイ料理は作ってました?
下: 作ってないです。まず、アパートにガス台がない。バンコクに暮らしていると、本当に自炊の意味がないんですよ、外で食べたほうが安いし美味しいし。田舎だと家庭でも作るけど、バンコクじゃほとんど作らないでしょうね。旦那の実家のほうだと、母さんや嫁たちが作ってますけど。
よ: 旦那さんの地元
では何を作って食べているんですか?
下: ゲーンチュー[★20]とかですよ。子供が多いので辛くない料理とか、焼き魚をタイ風のタレで食べたりとか。でも旦那が、母さんより私のほうがタイ料理上手だって言ってましたよ。バンコクのタイ料理レストランでよく食べられるような「アハーン・チャオワーン(宮廷料理)」が元になった料理は、お義母さんは作らないので。

唯一絶対のレシピなんて存在しない

よ: 旦那さんって、料理にうるさいタイプ?
下: 食べるのは好きだけど、うるさくはないです。あと、タイ人にしては日本食をちゃんと食べますよ。
よ: ヤムヤムで下関さんが出されたお豆腐の料理ですけど、あれは旦那さんが…。
下: 旦那の友だちの奥さんがうちに来て作ってくれた酒のつまみをヒントにしてます。作ってくれたと言っても、お皿にお豆腐をカパっとあけて、瓶から出したアンチョビーをのっけて、ナンプラーかけて、パクチーのせただけなんだけど、彼女のタイ人の旦那が大好きみたいで。

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富山の黒づくり+ナンプラー+パクチーの冷奴。ヤムヤム富山にて

よ: ヤムヤムでは、アンチョビーを富山の黒づくり[★21]に置き換えたんですよね。さっき言った、タイ人が食べても日本人が食べても違和感ない料理の、もっともシンプルな形。日本酒にも合うし。ヤムヤム富山で下関さんが考案した料理を形容する言葉を考えてたんですけど、「だまし絵」って言葉が浮かんできたんです。タイ料理と日本料理の共通部分を巧みな見立てでダブらせて、見方によってタイ料理に見えたり日本料理に見えたりするっていう。タイ風日本料理でも日本風タイ料理でもなく、どっちでもあるような感じというか…。空心菜の天ぷらもそうですよね。
下: 日本人なら空心菜と海老のかき揚げにタイ風ソースがついてると思うし、タイ人はパックブントートクローブ[★22]に海老が入ってると思うんでしょうね。
よ: 富山の「べっこう」[★23]とタイの「ウンカイ」[★24]をダブらせた前菜も面白かったです。もともと「べっこう」なんて知ってました?

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「べっこう」のような「ウンカイ」、あるいは「ウンカイ」のような「べっこう」?

下: いや、「富山、郷土料理」でガーッと検索して調べました。「ウンカイ」も、タイでそれほど一般的じゃないかもしれない。
よ: それこそ一般の人には細かすぎて伝わらないけど、わかる人にはわかる、と。
下: でも「ウンカイ」って、15年くらい前に日本で出たタイ料理のレシピ本には載ってましたよ。
よ: 下関さんは、そういう調査が徹底していますよね。
下: もともとテレビ番組のリサーチの仕事をやってたので、まず徹底的に調べるんですよね。
よ: 著書の『暮らして恋したバンコクごはん』にも書かれてますけど、まず作りたい料理のタイ語料理名をタイ語の料理本でチェックして、ネットで検索かけて、You Tubeとかもチェックして、おおよそのレシピを把握する。で、次に代用素材を使う場合は、日本のタイ料理本や、外国に住んでいるタイ人のブログとかを参考に、なにが代用になるか考えたり…。
下: ええ。先生に習ってないので、そういう方法しかないんです。
よ: でも、こういう調査を繰り返しやっていると、おなじ料理のいろんなバリエーションについて考えることになるわけで、自然とその料理の本質みたいなものに迫れそうな気がします。
下: 実は私、けっこう「研究家」なのかな。
よ: やっぱり料理の掘り下げ方が編集者的ですよ。先生に頼るより、料理に詳しくなれそう。
下: 先生に教わるのは、その先生のレシピですからね。で、その先生のレシピは、もしかしたら外国人ウケのする味にアレンジされたレシピかもしれない。タイって、屋台とか食堂だと、お客さんが外国人ってわかると、こちらが何も言わなくても辛さを控えめにしたり、味付け変えたりしますしね。
よ: たしかに。でも、下関さんには先生的な人って一切存在しないんですか? 必ずしも料理のプロじゃなくても、バンコク時代のタイ人のお知り合いとかに、いそうな気がするんですけど。
下: タイ人の先生は…タイ語のレシピ本ですね、私にとっては(笑)。
よ: なるほど(笑)。
下: あと最近、タイ語の動画料理サイトを参考にしてます。けっこうネタになってるから、あんまり教えたくないんだけど(笑)。すごい勢いでレシピがアップされ続けていて、いま全部で300~400くらいあるんじゃないかな。動画に出てくるタイ人のコックさんが何人かいて、西洋料理担当、お菓子担当、タイ伝統料理担当、みたいに担当分けになってる。で、各レシピに対してユーザーのコメントがつくんですけど、「このハーブは別のハーブなんじゃないか?」とか「これ手順が違うんじゃない? うちの地方では…」とか、同じ料理が地方によって、家庭によって、全然違うんだなってわかるんですよ。日本で言えば、肉じゃがのレシピに対して、「うちは豚肉じゃなくて牛肉だよ」とか「最初に肉を炒めないとダメじゃない?」とか「サラダ油じゃなくて、ごま油でしょ」とかコメントされるような感じで。
よ: 唯一絶対のレシピなんて、本当はないんですよね。
下: それはタイ料理も日本料理も同じなのに、日本人はなぜか唯一絶対のレシピをタイ料理に求める傾向ありますよね。正解はひとつだと思い込んで。

<注記>

[★11]『バンコク「そうざい屋台」食べつくし』
2009年2月、アスペクト刊。下関さんのタイ料理本としては初リリースとなったが、企画制作は『バンコク思い出ごはん』が先行していた。
[★12]ヤムヤム総集編
同イベント10回開催を記念して、下関さんをはじめとする歴代シェフ8名が参加の特別イベント。2013年6月開催。
[★13]カオカームー
豚足煮込みかけご飯。
[★14]ラープ
ひき肉などを使ったタイ東北地方のあえもの料理。
[★15]カオマンガイ
蒸し鶏のせごはん。
[★16]森枝卓士
食文化を広くあつかう写真家、ジャーナリスト。タイに関する著作は『食の旅 アジア―タイ・インドシナ半島』(TBSブリタニカ)、『私的メコン物語―食から覗くアジア』 (講談社)など。
[★17]前川健一
紀行作家。タイ関連の著作は『タイの日常茶飯』(弘文堂)など。
[★18]『DACO』
下関さんがコラムを連載する、バンコクで発行の日本語フリーペーパー。
[★19]イサーン系
「イサーン」はタイの東北地方を指す。ソムタムやガイヤーンなどが代表的なイサーン料理だが、ここで下関さんが言っているのはスープ系や和えものなど、もう少しマニアックなイサーン料理のこと。
[★20]ゲーンチュー
辛くないクリアスープ。ゲーンチュータオフー(豆腐入り)や、ゲーンチューウンセン(春雨入り)などがある。
[★21]黒づくり
イカスミの入った真っ黒なイカの塩辛。
[★22]パックブントートクローブ
「パックブン」は空芯菜、「トートクローブ」はカリカリ揚げ、の意味。
[★23]べっこう
富山の正月料理。溶き卵入りの甘辛い寒天。
[★24]ウンカイ
富山の「べっこう」と似ているが、タイではデザートとしての位置づけ。

<つづく>
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# by brd | 2015-11-29 17:05 | 東京のタイ | Comments(0)

タイと、日本と、かぼちゃ炒めと。 タイ料理家・下関崇子さんとの対話 その1

前回の記事で、新宿ベルクの迫川尚子さんをインタビューした書籍『味の形』(ferment vol.01)リリースのご案内をしましたが、実はfermentシリーズにはvol.00(創刊準備号)があります。

2013年にフリーペーパーの形で配布した、タイ料理家・下関崇子さんのインタビューです。

e0152073_2255291.jpg

上の写真のように、A3より若干小さいサイズの用紙にリソグラフ印刷した2枚を、すこし変った方法でたたんで配りました。

今回は、vol.01の完成を記念し、vol.00の記事をここで公開しようと思います。

公開にあたっては、下関崇子さんの許可を得、テキストをオリジナルから若干修正してあります。

インタビューしたのは、2013年9月でした。

オリジナルの原稿についている脚注は、記事下にまとめました。

下記より、3回の記事に分けて公開しようと思います。

---------------------------------------------------

下関崇子さんとの対話
タイと、日本と、かぼちゃ炒めと。

e0152073_2261337.jpg
かぼちゃ炒め/パット・ファクトーン(撮影・下関崇子 無断転載禁止)

下関崇子 プロフィール
しもせき・たかこ。ダイエット目的で始めたキックボクシングにハマって後楽園ホールでプロデビュー。ムエタイ修行のため渡タイ。結婚と出産を経て2006年に帰国。現在はムエタイ、タイ料理、タイ古式マッサージの講師などをつとめる。著書は『闘う女。~そんな私のこんな生き方』(徳間文庫)、『曼谷シャワー』(平安工房)、『バンコク「そうざい屋台」食べつくし』(アスペクト)、『バンコク思い出ごはん』『暮らして恋したバンコクごはん』(ダコトウキョウ)など。

インタビュー・文/(よ)

日タイ両方の味覚を同等にふまえる

(よ): 下関さんの活動を拝見していると、ダイエットで始めたキックボクシングであっさりプロデビューしてタイでムエタイ選手として活躍したり[★01]、自然体でほいほい成果を出しちゃう印象です。タイ料理に関しても、きっと同じなんでしょうね。
下関: うーん。タイ料理に関しては私、プロじゃないですよ。
よ: 「しまたい食堂」[★02]でも、告知にあったご自身の肩書を「タイ料理家」から「タイ屋台料理愛好家」に修正してましたもんね。
下: もともと正式な料理の教育を受けたわけじゃないし、誰かに師事した経験もないですから。タイ料理教室にすら通ったことないし。あと、それほどタイ料理を研究しているわけでもなくて、毎日のごはんとして作るものを、お伝えしているだけ。「チャイヤイ」の坂本さん[★03]みたいに、常に新しいメニューを開発しているわけでもないし、サクライチエリさん[★04]のように、レシピの分量を少しずつ変えたのをいくつも試作したりもしてないし。そういうの見ちゃうと、私はあんまり研究してないなって。
よ: 下関さんとの初対面は「ヤム!ヤム!ソウルスープキッチン」の富山編[★05]でしたけど、あのときの料理がすごく印象的で。他のシェフの料理と何かが違うなあと。

e0152073_2261891.jpg
ヤム!ヤム!ソウルスープキッチン富山編での一品。豆乳グリーンカレーのカノムチン・富山の大門素麺

下: そうでしたか。
よ: まず、タイに深く関わっている下関さんは、味覚がタイネイティブに近いのかもしれないな、と思ったんです。さらに、タイ人の旦那さん[★06]のために日常的にタイ料理を作ってるでしょ。もちろん日本人だから、日本の味覚も知ってる。つまり、日タイ両方の味覚を同等にふまえて料理を作る人なんじゃないか、と。
下: ふむふむ。
よ: たぶん、あのときの料理はタイ人が食べても普通に美味しいと思うんです。で、日本人が食べても違和感がない。でも、それって言うほど簡単なことじゃないと思うんですよ。
下: かなり日本寄りにアレンジした料理があったり、本場そのままだったり…。
よ: うーん。
下: なんでしょうね。本当に料理家さんそれぞれ特徴が出ますね。
よ: すごく出ます。それがヤムヤムの面白いところ。

タイ料理家/ものまね芸人比較論

下: これ、フェイスブックに書いた話ですけど、たとえば、ものまね芸人にもいろんなタイプがいるでしょ。
よ: ものまね、ですか?
下: たとえば、コロッケの森進一のものまねって、どう考えても本人は絶対しない動きじゃないですか。
: そうですか?
下: 五木ひろしのロボットとか。
よ: ものまねというより「コロッケのものまね」という別ジャンルの芸みたい、というような話?
下: そうそう。「ご本人」とは全然違うのに、誰が見ても森進一とか五木ひろしってわかる。
よ: たしかに。
下: らーぷさん[★07]って、コロッケなんですよ。
よ: え?
下: らーぷさんって、タイ料理のエッセンスを抽出してタイにはないタイ料理を作るのが得意なタイプだと思うんです。「グリーンカレーいかめし」「野菜のガピ焼き」「チリインオイル枝豆」「ガパオおにぎり」とか、タイにはないんだけど、タイ料理だよね、みたいな。
よ: うーん、なんとなくわかるような気が…。「らーぷさん料理」という独特ジャンル、みたいな。
下: そうそう。あと別のタイプとしては、青木隆治みたいに再現が忠実な人。
よ: 青木隆治さんって、ボク知らない方ですね。
下: ものまねタレントなんですけど。
よ: あー、タイ料理じゃなくて、ものまねのほうですか(笑)。
下: ものまねの人(笑)。青木隆治は、とにかく、ものまねの対象を忠実に再現する人。ほんとにそっくりで、ヤムヤムシェフではサクライチエリさんが、そんな感じ。
よ: タイ料理家/ものまね芸人比較論(笑)。
下: サクライチエリさんは、現地の食材で見た目も味も忠実に再現できる。日本で作るときは多少味を変えているとは思いますけど、スタイルとしては青木隆治的。
よ: なるほど。
下: あと、西尾夕紀みたいに、本業は演歌歌手で歌唱技術がちゃんとあって、かつ、ものまねもうまい人っていますよね。それが両角舞さん[★08]とかだと思うんですよ。
よ: ははは。両角さんは、基礎のしっかりした演歌歌手。
下: しっかり料理を学んでいて、ちゃんとした基礎があって、その上でタイ料理に出会ってタイ料理を作っている。
よ: すごい分析。おもしろい!
下: で、私がものまねの世界で何かというと、「とんねるずの細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」。
よ: ははは!
下: そこ、真似するとこか? みたいな。
よ: 真似する対象がマニアック過ぎ。
下: でも、知ってる人は大ウケ。
よ: この話自体が、細かすぎて伝わらないかも(笑)。
下: たぶん私がやってるのは、それなんですよね、タイ料理の世界で。
よ: 下関さんが注目するタイ料理のポイントは、日本人にとってマニアックすぎる、と。
下: タイ人にとっても微妙すぎるセレクションだと思います。
よ: たとえば?
下: 『暮らして恋したバンコクごはん』[★09]に載せた料理ですけど、「マカロニケチャップ炒め」[★10]とか。日本の料理でたとえると、「ツナマヨおにぎり」。これって、みんなが食べてるけど、料理教室で教えるものでもないし、レシピ本に載せるものでもないでしょ。

e0152073_226204.jpg
マカロニケチャップ炒め(撮影・下関崇子 無断転載禁止)

よ: そもそも、家で作るものじゃないですよね。
下: 店で食べるものでもないし。
よ: 基本、コンビニで売ってて、料理とすら認識されないような。
下: でも、みんな好きですよね。そういうたぐいのものが、私の本にはけっこう載ってる。
よ: じゃあ、タイ人に見せたら「マカロニケチャップ炒めなんて珍しい」って驚きますかね。
下: 珍しいというより「こんなのわざわざ本に載せるの?」って思うんじゃないですか(笑)。

<注記>

[★01]ムエタイ選手として活動
下関さんのキックボクシング、ムエタイ選手としての活動は、著書『闘う女。~そんな私のこんな生きかた』(2004年、徳間書店刊)に詳しい。

[★02]「しまたい食堂」
瀬戸内海・上島諸島の食材を紹介する食ユニット「しまの食堂」とタイ料理、台湾茶がコラボした2013年10月開催のパーティ。

[★03]「チャイヤイ」の坂本さん
北千住のタイ料理店「チャイヤイ」のオーナーシェフ、坂本広氏。「ヤム!ヤム!ソウルスープキッチン」徳島編(2013年4月開催)のシェフ。

[★04]サクライチエリ
タイ料理教室「Sala Isara」を主催のタイ料理家。「ヤム!ヤム!ソウルスープキッチン」愛媛編(2012年7月開催)のシェフ。

[★05]「ヤム!ヤム!ソウルスープキッチン」の富山編
「ヤム!ヤム!ソウルスープキッチン」は日本各地の食材とタイ料理をコラボさせる食イベント。略して「ヤムヤム」。下関さんは2012年3月開催の富山編シェフを担当。

[★06]タイ人の旦那さん
旦那さんは下関さんの元ムエタイトレーナーだった人。WBU(世界ボクシング連合)フライ級世界チャンピオン。

[★07]らーぷ
「らーぷ」は渋谷のタイ料理店「Laap」のシェフ、鈴木直美さんのニックネーム。2012年5月開催のヤムヤム茨城のシェフもつとめた。

[★08]両角舞
フードコーディネーター。2011年7月開催のヤムヤム長野シェフ。

[★09]『暮らして恋したバンコクごはん』
2012年12月発行。下関さんのタイ料理本としては三作目。

[★10]マカロニケチャップ炒め
ケチャップ&オイスターソース味のマカロニを卵でとじる「タイ風洋食」。少数だがスパゲティを使う屋台もある。

<つづく>
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# by brd | 2015-11-27 08:47 | 東京のタイ | Comments(0)


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