タイと、日本と、かぼちゃ炒めと。 タイ料理家・下関崇子さんとの対話 その1

前回の記事で、新宿ベルクの迫川尚子さんをインタビューした書籍『味の形』(ferment vol.01)リリースのご案内をしましたが、実はfermentシリーズにはvol.00(創刊準備号)があります。

2013年にフリーペーパーの形で配布した、タイ料理家・下関崇子さんのインタビューです。

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上の写真のように、A3より若干小さいサイズの用紙にリソグラフ印刷した2枚を、すこし変った方法でたたんで配りました。

今回は、vol.01の完成を記念し、vol.00の記事をここで公開しようと思います。

公開にあたっては、下関崇子さんの許可を得、テキストをオリジナルから若干修正してあります。

インタビューしたのは、2013年9月でした。

オリジナルの原稿についている脚注は、記事下にまとめました。

下記より、3回の記事に分けて公開しようと思います。

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下関崇子さんとの対話
タイと、日本と、かぼちゃ炒めと。

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かぼちゃ炒め/パット・ファクトーン(撮影・下関崇子 無断転載禁止)

下関崇子 プロフィール
しもせき・たかこ。ダイエット目的で始めたキックボクシングにハマって後楽園ホールでプロデビュー。ムエタイ修行のため渡タイ。結婚と出産を経て2006年に帰国。現在はムエタイ、タイ料理、タイ古式マッサージの講師などをつとめる。著書は『闘う女。~そんな私のこんな生き方』(徳間文庫)、『曼谷シャワー』(平安工房)、『バンコク「そうざい屋台」食べつくし』(アスペクト)、『バンコク思い出ごはん』『暮らして恋したバンコクごはん』(ダコトウキョウ)など。

インタビュー・文/(よ)

日タイ両方の味覚を同等にふまえる

(よ): 下関さんの活動を拝見していると、ダイエットで始めたキックボクシングであっさりプロデビューしてタイでムエタイ選手として活躍したり[★01]、自然体でほいほい成果を出しちゃう印象です。タイ料理に関しても、きっと同じなんでしょうね。
下関: うーん。タイ料理に関しては私、プロじゃないですよ。
よ: 「しまたい食堂」[★02]でも、告知にあったご自身の肩書を「タイ料理家」から「タイ屋台料理愛好家」に修正してましたもんね。
下: もともと正式な料理の教育を受けたわけじゃないし、誰かに師事した経験もないですから。タイ料理教室にすら通ったことないし。あと、それほどタイ料理を研究しているわけでもなくて、毎日のごはんとして作るものを、お伝えしているだけ。「チャイヤイ」の坂本さん[★03]みたいに、常に新しいメニューを開発しているわけでもないし、サクライチエリさん[★04]のように、レシピの分量を少しずつ変えたのをいくつも試作したりもしてないし。そういうの見ちゃうと、私はあんまり研究してないなって。
よ: 下関さんとの初対面は「ヤム!ヤム!ソウルスープキッチン」の富山編[★05]でしたけど、あのときの料理がすごく印象的で。他のシェフの料理と何かが違うなあと。

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ヤム!ヤム!ソウルスープキッチン富山編での一品。豆乳グリーンカレーのカノムチン・富山の大門素麺

下: そうでしたか。
よ: まず、タイに深く関わっている下関さんは、味覚がタイネイティブに近いのかもしれないな、と思ったんです。さらに、タイ人の旦那さん[★06]のために日常的にタイ料理を作ってるでしょ。もちろん日本人だから、日本の味覚も知ってる。つまり、日タイ両方の味覚を同等にふまえて料理を作る人なんじゃないか、と。
下: ふむふむ。
よ: たぶん、あのときの料理はタイ人が食べても普通に美味しいと思うんです。で、日本人が食べても違和感がない。でも、それって言うほど簡単なことじゃないと思うんですよ。
下: かなり日本寄りにアレンジした料理があったり、本場そのままだったり…。
よ: うーん。
下: なんでしょうね。本当に料理家さんそれぞれ特徴が出ますね。
よ: すごく出ます。それがヤムヤムの面白いところ。

タイ料理家/ものまね芸人比較論

下: これ、フェイスブックに書いた話ですけど、たとえば、ものまね芸人にもいろんなタイプがいるでしょ。
よ: ものまね、ですか?
下: たとえば、コロッケの森進一のものまねって、どう考えても本人は絶対しない動きじゃないですか。
: そうですか?
下: 五木ひろしのロボットとか。
よ: ものまねというより「コロッケのものまね」という別ジャンルの芸みたい、というような話?
下: そうそう。「ご本人」とは全然違うのに、誰が見ても森進一とか五木ひろしってわかる。
よ: たしかに。
下: らーぷさん[★07]って、コロッケなんですよ。
よ: え?
下: らーぷさんって、タイ料理のエッセンスを抽出してタイにはないタイ料理を作るのが得意なタイプだと思うんです。「グリーンカレーいかめし」「野菜のガピ焼き」「チリインオイル枝豆」「ガパオおにぎり」とか、タイにはないんだけど、タイ料理だよね、みたいな。
よ: うーん、なんとなくわかるような気が…。「らーぷさん料理」という独特ジャンル、みたいな。
下: そうそう。あと別のタイプとしては、青木隆治みたいに再現が忠実な人。
よ: 青木隆治さんって、ボク知らない方ですね。
下: ものまねタレントなんですけど。
よ: あー、タイ料理じゃなくて、ものまねのほうですか(笑)。
下: ものまねの人(笑)。青木隆治は、とにかく、ものまねの対象を忠実に再現する人。ほんとにそっくりで、ヤムヤムシェフではサクライチエリさんが、そんな感じ。
よ: タイ料理家/ものまね芸人比較論(笑)。
下: サクライチエリさんは、現地の食材で見た目も味も忠実に再現できる。日本で作るときは多少味を変えているとは思いますけど、スタイルとしては青木隆治的。
よ: なるほど。
下: あと、西尾夕紀みたいに、本業は演歌歌手で歌唱技術がちゃんとあって、かつ、ものまねもうまい人っていますよね。それが両角舞さん[★08]とかだと思うんですよ。
よ: ははは。両角さんは、基礎のしっかりした演歌歌手。
下: しっかり料理を学んでいて、ちゃんとした基礎があって、その上でタイ料理に出会ってタイ料理を作っている。
よ: すごい分析。おもしろい!
下: で、私がものまねの世界で何かというと、「とんねるずの細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」。
よ: ははは!
下: そこ、真似するとこか? みたいな。
よ: 真似する対象がマニアック過ぎ。
下: でも、知ってる人は大ウケ。
よ: この話自体が、細かすぎて伝わらないかも(笑)。
下: たぶん私がやってるのは、それなんですよね、タイ料理の世界で。
よ: 下関さんが注目するタイ料理のポイントは、日本人にとってマニアックすぎる、と。
下: タイ人にとっても微妙すぎるセレクションだと思います。
よ: たとえば?
下: 『暮らして恋したバンコクごはん』[★09]に載せた料理ですけど、「マカロニケチャップ炒め」[★10]とか。日本の料理でたとえると、「ツナマヨおにぎり」。これって、みんなが食べてるけど、料理教室で教えるものでもないし、レシピ本に載せるものでもないでしょ。

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マカロニケチャップ炒め(撮影・下関崇子 無断転載禁止)

よ: そもそも、家で作るものじゃないですよね。
下: 店で食べるものでもないし。
よ: 基本、コンビニで売ってて、料理とすら認識されないような。
下: でも、みんな好きですよね。そういうたぐいのものが、私の本にはけっこう載ってる。
よ: じゃあ、タイ人に見せたら「マカロニケチャップ炒めなんて珍しい」って驚きますかね。
下: 珍しいというより「こんなのわざわざ本に載せるの?」って思うんじゃないですか(笑)。

<注記>

[★01]ムエタイ選手として活動
下関さんのキックボクシング、ムエタイ選手としての活動は、著書『闘う女。~そんな私のこんな生きかた』(2004年、徳間書店刊)に詳しい。

[★02]「しまたい食堂」
瀬戸内海・上島諸島の食材を紹介する食ユニット「しまの食堂」とタイ料理、台湾茶がコラボした2013年10月開催のパーティ。

[★03]「チャイヤイ」の坂本さん
北千住のタイ料理店「チャイヤイ」のオーナーシェフ、坂本広氏。「ヤム!ヤム!ソウルスープキッチン」徳島編(2013年4月開催)のシェフ。

[★04]サクライチエリ
タイ料理教室「Sala Isara」を主催のタイ料理家。「ヤム!ヤム!ソウルスープキッチン」愛媛編(2012年7月開催)のシェフ。

[★05]「ヤム!ヤム!ソウルスープキッチン」の富山編
「ヤム!ヤム!ソウルスープキッチン」は日本各地の食材とタイ料理をコラボさせる食イベント。略して「ヤムヤム」。下関さんは2012年3月開催の富山編シェフを担当。

[★06]タイ人の旦那さん
旦那さんは下関さんの元ムエタイトレーナーだった人。WBU(世界ボクシング連合)フライ級世界チャンピオン。

[★07]らーぷ
「らーぷ」は渋谷のタイ料理店「Laap」のシェフ、鈴木直美さんのニックネーム。2012年5月開催のヤムヤム茨城のシェフもつとめた。

[★08]両角舞
フードコーディネーター。2011年7月開催のヤムヤム長野シェフ。

[★09]『暮らして恋したバンコクごはん』
2012年12月発行。下関さんのタイ料理本としては三作目。

[★10]マカロニケチャップ炒め
ケチャップ&オイスターソース味のマカロニを卵でとじる「タイ風洋食」。少数だがスパゲティを使う屋台もある。

<つづく>
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by brd | 2015-11-27 08:47 | 東京のタイ | Comments(0)


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