神楽坂のフランス料理店、ル・マンジュ・トゥーに行ってきた。
神楽坂のフランス料理店、ル・マンジュ・トゥーに行ってきた。
ダニエル・デュモンのシャンパーニュと、ピンカス・ミューラーのオーガニックビールでスタート。
ひとくち。口内の小爆発。まず舌にスプーンのキンとした冷たさ、次に黒いパリパリがパリンッと崩壊してイカスミの香り。追ってスルメイカと根セロリのタルタル、柚子胡椒のクリームがまじり、ねっとりイカの旨味。柚子胡椒のスパイシーな爆風がスーッとひいた後、イカの後味がほんわり残り、あっけにとられている間にすべてが消えていく。
皿が来た瞬間からブワ~っと鼻孔をくすぐる華やかなトリュフの香りと、ほっくりむちっりして素直な函館の平目が対照的。若いクレソンは柔らかくしなやかで爽やか。緑のピュレもクレソン。三様のキャラクターが揃って、皿の上にちょっとした世界が生まれてる。
フランス料理の構築的な美味しさの世界を初めて知ったのは、たぶんル・マンジュ・トゥーでだったと思う。
実に数年ぶりで、ずっと再訪したいと思っていた。ミシュランの星がついて、きっと混んでいるだろうなあと思っているうちに震災。それから何度かチャンスはあったのに、なぜか訪問に至らず気がついたらもう2015年。
フランス料理をおぼえたてのころ出会ったお店だから、とても思い入れがある。
見田盛夫さんの『エピキュリアン』を片手に都内のお店を探訪しはじめた時期は、ル・マンジュ・トゥーはじめ、四谷の北島亭、青山のラ・ブランシュ、三田のコート・ドールなど、ちょっと硬派っぽいフランス料理店が気に入った。あとキノシタとかも。
ビストロブームっぽい時期でもあって、馬場のラミティエがオープン。その近所のラ・ディネットや、御苑のメトロ、四谷三丁目のパザパとかも、よく行った。
なかでもル・マンジュ・トゥーの谷さんの料理には、サムシングを感じていた。著書のレシピ本を買ってみたりもした。
谷シェフのスペシャリテ、蝦夷鹿のコンソメ。
一口目はコンソメ、次にフォークに刺さった生ハムを召し上がってください。そのあとはご自由に、とのサジェスト。蝦夷鹿が液体に濃縮された、肉を食べているようなスープ。蝦夷鹿の肉を食うというフィクション。そのフィクションを、さらに料理に置きなおしたメタ料理、なんてファンタジーが頭を巡る。
谷昇シェフの料理は言葉を誘う。この文を書こうと思って、ディナー印象をメモっていたら、なんだか料理の構造のようなものが見えてくるような気がして筆が進む。と同時に、口内に唾液があふれてきて、また食べているような感覚になってくる。言葉と味覚の快楽は、個人的に最近のテーマだ。
鴨のソーセージに濃厚な血のソース。下に敷いてあるプレコーチェの苦みで我に返る。料理に合わせてジゴンダス。
一昨年だったか、辻静雄氏の著作の復刻に関連したイベントが代官山蔦屋で行われ、谷さんと君島佐和子さんの対談があったので、聞きに行った。
鱈ってみんな冬の魚だと思っているけど夏の方が水が出なくて美味しいんです。鱈という字は魚へんに雪だけど、なんか間違ってないかな? なんて谷節も刺激的だった。谷さんの料理に関する言葉はロジカルで、すべてに必ず裏付けがある。知識もすごい。わからないことがあると、谷さんに聞きに行っていた、と君島さん。
谷さんと君島さんといえば、『料理通信』の企画で開催された谷シェフと浅野正巳シェフのコラボレーションディナーに参加した思い出が蘇る。
もう記憶が定かじゃないけど、グレープフルーツのジュレがかかった鯛の白子のフランに日本酒を合わせる、そんな過激な料理の連続で興奮した。今回その話を谷さんにしたら、ずいぶん前ですね!あのときは浅野君に振り回されました、なんておっしゃっていた。
函館の帆立。シェフ手製の塩辛と鮎魚醤を使った塩気の強調されたソースが焼き目の香ばしいところとからむと、なんだか魚を食べているみたい。海。塩分。発酵。なんて思いながら、つけあわせを食べる。黒くてパリパリ。海苔?いや黒キャベツだった。黒く見えるのがオーブンで乾燥させたパリパリ、緑色がソテーしたしっとり。ふたつの触感。
スコットランドのペルドロー。ほとんど生に近いようなレアなささみと、香ばしく火の入った胸肉と、骨からむしゃぶるもも肉を順に食べていると、山鶉の肉を立体的に味わっているような気になってくる。たくさん乗せられたトランペット茸が、いかにもキノコらしいというか、森のような感じ。手前はクリーミーなラット種じゃがいものピュレ。白いソースを、この写真のあとさらにテーブルで足してくれ存分に味わう。
ジビエという言葉をおぼえたてくらいのとき、予約の電話で「ジビエは食べられますか」と言ったら、ペルドロー、そして猪、メインの肉料理が二種類も相当なボリュームで出た。何気なく口にした希望を最大限に汲み取ってくれたディナーは印象に残っている。
ビーツのスープの赤と苺の赤が鮮やか。
リンゴのパイ包み焼きがあつあつ、バニラのアイスが冷たい。リンゴのほんのりした甘味、ロックフォールのソースの塩気。
前よりサービスがにぎやかで明るい感じになったと思う。久しぶりなんですと伝えると、厨房に招いてくれ、谷さんと記念撮影。スタッフみんなが集まってきてくれる。春になると子羊が美味しいそうだ。
また、そのころに!
(よ)
ダニエル・デュモンのシャンパーニュと、ピンカス・ミューラーのオーガニックビールでスタート。
ひとくち。口内の小爆発。まず舌にスプーンのキンとした冷たさ、次に黒いパリパリがパリンッと崩壊してイカスミの香り。追ってスルメイカと根セロリのタルタル、柚子胡椒のクリームがまじり、ねっとりイカの旨味。柚子胡椒のスパイシーな爆風がスーッとひいた後、イカの後味がほんわり残り、あっけにとられている間にすべてが消えていく。
皿が来た瞬間からブワ~っと鼻孔をくすぐる華やかなトリュフの香りと、ほっくりむちっりして素直な函館の平目が対照的。若いクレソンは柔らかくしなやかで爽やか。緑のピュレもクレソン。三様のキャラクターが揃って、皿の上にちょっとした世界が生まれてる。
フランス料理の構築的な美味しさの世界を初めて知ったのは、たぶんル・マンジュ・トゥーでだったと思う。
実に数年ぶりで、ずっと再訪したいと思っていた。ミシュランの星がついて、きっと混んでいるだろうなあと思っているうちに震災。それから何度かチャンスはあったのに、なぜか訪問に至らず気がついたらもう2015年。
フランス料理をおぼえたてのころ出会ったお店だから、とても思い入れがある。
見田盛夫さんの『エピキュリアン』を片手に都内のお店を探訪しはじめた時期は、ル・マンジュ・トゥーはじめ、四谷の北島亭、青山のラ・ブランシュ、三田のコート・ドールなど、ちょっと硬派っぽいフランス料理店が気に入った。あとキノシタとかも。
ビストロブームっぽい時期でもあって、馬場のラミティエがオープン。その近所のラ・ディネットや、御苑のメトロ、四谷三丁目のパザパとかも、よく行った。
なかでもル・マンジュ・トゥーの谷さんの料理には、サムシングを感じていた。著書のレシピ本を買ってみたりもした。
谷シェフのスペシャリテ、蝦夷鹿のコンソメ。
一口目はコンソメ、次にフォークに刺さった生ハムを召し上がってください。そのあとはご自由に、とのサジェスト。蝦夷鹿が液体に濃縮された、肉を食べているようなスープ。蝦夷鹿の肉を食うというフィクション。そのフィクションを、さらに料理に置きなおしたメタ料理、なんてファンタジーが頭を巡る。
谷昇シェフの料理は言葉を誘う。この文を書こうと思って、ディナー印象をメモっていたら、なんだか料理の構造のようなものが見えてくるような気がして筆が進む。と同時に、口内に唾液があふれてきて、また食べているような感覚になってくる。言葉と味覚の快楽は、個人的に最近のテーマだ。
鴨のソーセージに濃厚な血のソース。下に敷いてあるプレコーチェの苦みで我に返る。料理に合わせてジゴンダス。
一昨年だったか、辻静雄氏の著作の復刻に関連したイベントが代官山蔦屋で行われ、谷さんと君島佐和子さんの対談があったので、聞きに行った。
鱈ってみんな冬の魚だと思っているけど夏の方が水が出なくて美味しいんです。鱈という字は魚へんに雪だけど、なんか間違ってないかな? なんて谷節も刺激的だった。谷さんの料理に関する言葉はロジカルで、すべてに必ず裏付けがある。知識もすごい。わからないことがあると、谷さんに聞きに行っていた、と君島さん。
谷さんと君島さんといえば、『料理通信』の企画で開催された谷シェフと浅野正巳シェフのコラボレーションディナーに参加した思い出が蘇る。
もう記憶が定かじゃないけど、グレープフルーツのジュレがかかった鯛の白子のフランに日本酒を合わせる、そんな過激な料理の連続で興奮した。今回その話を谷さんにしたら、ずいぶん前ですね!あのときは浅野君に振り回されました、なんておっしゃっていた。
函館の帆立。シェフ手製の塩辛と鮎魚醤を使った塩気の強調されたソースが焼き目の香ばしいところとからむと、なんだか魚を食べているみたい。海。塩分。発酵。なんて思いながら、つけあわせを食べる。黒くてパリパリ。海苔?いや黒キャベツだった。黒く見えるのがオーブンで乾燥させたパリパリ、緑色がソテーしたしっとり。ふたつの触感。
スコットランドのペルドロー。ほとんど生に近いようなレアなささみと、香ばしく火の入った胸肉と、骨からむしゃぶるもも肉を順に食べていると、山鶉の肉を立体的に味わっているような気になってくる。たくさん乗せられたトランペット茸が、いかにもキノコらしいというか、森のような感じ。手前はクリーミーなラット種じゃがいものピュレ。白いソースを、この写真のあとさらにテーブルで足してくれ存分に味わう。
ジビエという言葉をおぼえたてくらいのとき、予約の電話で「ジビエは食べられますか」と言ったら、ペルドロー、そして猪、メインの肉料理が二種類も相当なボリュームで出た。何気なく口にした希望を最大限に汲み取ってくれたディナーは印象に残っている。
ビーツのスープの赤と苺の赤が鮮やか。
リンゴのパイ包み焼きがあつあつ、バニラのアイスが冷たい。リンゴのほんのりした甘味、ロックフォールのソースの塩気。
前よりサービスがにぎやかで明るい感じになったと思う。久しぶりなんですと伝えると、厨房に招いてくれ、谷さんと記念撮影。スタッフみんなが集まってきてくれる。春になると子羊が美味しいそうだ。
また、そのころに!
(よ)
by brd
| 2015-01-16 09:27
| 東京のフランス
旅の食卓と食卓の旅。ferment booksより『サンダー・キャッツの発酵教室』『味の形』発売中。ツイッターは @oishiisekai @fermentbooks
by brd
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