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バンコク : タイ人以上にタイ的なミシュランシェフのタイ料理 「ナーム nahm」

バンコクの旅、その3。

今回いちばんの収穫は、メトロポリタン・バンコク内にあるタイ料理レストラン「ナーム」。

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タイ料理ではじめてミシュランスターを獲得したロンドン「ナーム」のバンコク支店。シェフはオーストラリア人だそうだ。

「ナーム」とは、タイ語で「水」のこと。

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シンプルで良い店名だな、と思う。

外国人でも、タイ語をちょっとかじれば、絶対に知っている言葉だ。

例えば、

・ナーム + プラー(魚) = ナンプラー(魚醤)
・ナーム + ソム(柑橘) = ナムソム(オレンジジュース)
・ナーム + ケン(固い) = ナムケン(氷)
・バミー(中華麺) + ナーム = バミー・ナーム(汁そば)

など、食関連の言葉にも頻出する。

食だけじゃない。

バンコクそのものが川と運河に育まれる水の都であり、そう、タイの旧正月ソンクラーンは水かけ祭だった。

こんな言葉もある。

・ナーム + ジャイ(心) = ナムジャイ(思いやり)

水は、食の基本であると同時に、タイという社会の象徴でもあるような何かなのかもしれない。

タイ産のワインをたのんでみた。

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モンスーンヴァレー・コロンバール。

ワイナリーの所在地は、タイ王室の保養地があるホアヒンだそう。

フルーティで軽いんだけど、全体的に丸いような、まったりした感じもある。ミネラリー。

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アミューズ。

三角に切られたパイナップルに、タイ的な風味を凝らしたペースト、パクチー、唐辛子。

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そして、銘々皿にごはん。

サーブの仕方が素晴らしかった。

サービスの男性がおひつを持ってやってきて、大きな匙でクネルのごとくごはんをラグビーボール状にすくい、お皿にぽんっと置くと、ラグビーボールがほどけて、ほどけた間からぶわ~っといい香りの湯気が立ちのぼる。

タイ米が、つぶつぶ、立っている。

オーダーした4品の料理は、順に出るウエスタンスタイルではなく、全部が同時にテーブルに並んだ。タイ式。

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レモングラスと海老のヤム。

レモングラスは風味づけではなく、レモングラスの輪切そのものがメイン食材。「ヤム」はタイ風の和え物。

豚皮のカリカリ揚げ、「ケープムー」がアクセント。

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鶏と冬瓜のような野菜の蒸し物。

上からふられた胡椒がポイント。でも、唐辛子の辛さはまったくなし。鶏は繊維の歯ごたえがあって地鶏のよう。一見あっさりして見えるスープが濃厚なうまみ。ごはんにかけて食べても美味しい。

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牛肉のグリーンカレー。

牛肉にかなりしっかり下味がついている。そこにグリーンカレーのグレービーがちゃんとからんで美味しさを演出している。各種ハーブも香り高く、絶品。

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カエルのクミンの葉炒め。

クミンシードはインド料理などでよく使われるが、クミンの葉は珍しい感じがする。噛むと強い芳香と、すこしニチャっとするような歯ごたえがあるのがクミンの葉だろうか。

オーダーのとき、「うちの店の一番辛い料理ですが、大丈夫ですか? すごく辛いです」とサービスの男性に言われた。でも、こういうスタイリッシュなホテルにある、こういうモダンなレストランにおいて、外国人観光客に向け発せられた“very hot, very spicy”は額面どおりに受とれない。基本的に、タイ人は「外国人は辛いのが苦手」となめてかかっている、とこっちは思い込んでいるのでオッケーオッケー、ノープロブレムとか言ってオーダーしたら、う~ん、けっこう辛かった!

唐辛子だけの辛さでなく、胡椒だろうか、ほかのスパイスの辛さも混じっているような気がする。クミンの葉も少し舌にピリッとするというから、その辛味も加わっているのだろうか。

ペッテーアロイ(辛いけど美味しい)。

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デザートはカオニャオ・トゥリアン。

カオニャオ=もち米。

トゥリアン=ドリアン。

ココナツミルクで炊いた甘いもち米にドリアンを添えて食べるタイ定番デザートだけど、ここのはさらなるココナツミルクで汁気の多い仕上がり。

このギリギリまで塩気を強めたまったりした味付け、嫌う人もいるかもしれないけれど、本当に美味しいと感じる。

タイのストリートでよく見る光景で、カットフルーツに塩を添えるサービスがある。日本でもスイカに塩をかけたりするけれど、タイではパイナップルやらマンゴーやらに小さな塩の入った袋をつけてくれる。粉唐辛子の入った袋をつけてくれる場合もある。

同様、オレンジジュースに塩を入れたりする場合もある。

甘みに塩気を足すことで、よりボディの太い味わいにして楽しむタイ的な味覚センス。

米にも他の味を増幅する力があるので、ドリアンとココナッツミルクの混じったクセのあるまったりした甘みが、塩気ともち米でパワーアップした美味しさに仕立てられている。最高のタイらしさ。

話はそれるが、タイ在住の映像作家いわく「タイ人の画像処理は彩度が高い」とか。

タイ人は、きつい色が好きらしい。

塩気で甘みにパンチを加えたがるセンスと一脈通じるような気がする。

そもそも、タイ料理のイメージは辛くて甘くて酸っぱくってうまみも強いトゥーマッチさが基本にある。

さらに言うと、タイの演歌のコンサートはスピーカーがわれんばかりの爆音だとか。

淡くてミニマルな感覚を尊ぶ日本人のセンスと対極にある、タイのトゥーマッチセンスをベースにタイ文化論をまとめてみたい誘惑にかられる。

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レモングラスのハーブティー。

全体に、とても美味しく満足だった。

あまり予備知識がなく、ミシュランスターレストランだから勝手にヌーヴェル・タイ・キュイジーヌ的なものを想像していたが、全っ然違って、かなりストレートなタイ料理だった。

なのに、いままで体験したことない美味しさ。

オーストラリア出身のシェフ、デイビッド・トンプソンさんはタイ各地の料理を研究し、文献にもあたってタイ料理を追求しているそうだ。

タイ料理を知り尽くし、しかし、あえて西洋的な要素を折衷することなく、クオリティをアップしていくとこうなるのかもしれない。

タイ料理は、フレンチや中華と違って宮廷料理として発展した歴史が薄いから(たぶん。間違っていたらすいません)、こうした試みは、とても意味のあることなのかもしれない。

つづく。

(よ)

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by brd | 2011-05-16 02:07 | タイ


旅の食卓と食卓の旅。ferment booksより『サンダー・キャッツの発酵教室』『味の形』発売中。ツイッターは @oishiisekai @fermentbooks


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